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あったか・えっせい

「あったか・えっせい」は、玉屋の所属する社団法人日本専門店協会が主催す るエッセイコンテストです。全国の店頭に立つ販売員から寄せられたお客様と のふれあいや感動の実話を募ったもので、弊社スタッフが応募したエッセイも数々の賞をいただいております。

第14回 2010年度 優秀賞

あなたに会えて良かったです

(氏名割愛)

それは11月の出来事だった。
その日、ロング接客についたお客様は、ウエーブのかかった茶髪のロングヘア、細くてどこかギャルっぽい雰囲気のお客様だった。
ミニスカートでお悩みの様子だったのでご試着をお勧めした。
が、接客の途中で自分の中に「あれ?」という感覚があった。

一緒に悩んだ結果3点が決まり、いつも通りお会計を進めた。
するとそのお客様はお金をトレーに乗せながら、にっこり笑って私にこう言った。
「すごい成長しましたね」。
思いがけない言葉に驚いて顔を上げると、「以前接客していただいた事があるんです。スカートを探していただいて…」その時、自分の中の何かが一気に解け、驚きが込み上げてきた。
思い当たる人が1人いたからだ。

それは今の店に異動して14日目、5月14日の事だった。
夕方のピークを迎え、新入社員だった私は連続で失敗をして先輩に迷惑をかけてしまった。
先輩の足を引っ張っていることが申し訳なく、お客様への接客も精一杯の状態で私は今にも泣きそうだった。

そんな中、1人のお客様から「これの新しいのはありますか?」とスカートを差し出された。
店に在庫は無く、先輩に相談すると往復10分ほど離れた倉庫にあることが分かった。試着室も散々お待たせしている上、新しい物を持ってくるためにまたお時間をとらせてしまう。
お客様に事情を説明して倉庫に取りに向かう途中、私は罪悪感を感じずにはいられなかった。

倉庫でスカートを探すと、ないはずの色違いがあり、それと新しいもの2枚を持って走って店に戻った。
「お待たせして申し訳ございません。お色違いも倉庫にございまして…」と息を切らせて差し出すと、「えー!嬉しいです! わざわざ持ってきてくれたんですか?」とぱっと笑顔になり、すごく喜んでくださった。

涙が一気にあふれ、「申し訳ございません」とお客様の前で思わず泣いてしまった。
試着室にご案内するのも、新品を探すのも、それを持ってくるのにも待たせてしてしまった。
本当に申し訳なく思っていたのに、とびきりの笑顔でお礼を言っていただけたのだ。
そのお客様の優しくて温かい気持ちがすごく嬉しかった。
そこからお客様と話が弾み、私が新入社員で異動したばかりだった事も話した。
お見送りの時、「お姉さん、今日は本当にありがとうございました!また来ますね! これからも頑張ってください!」と、また笑顔で言って頂けたので私はまた嬉しくて泣いてしまった。

思い当たるのはこの人しかいなかった。
「もしかしてミニスカートをお買い上げくださった…?」と伺うと「そうです! 覚えていてくれたんですね!」とまた笑顔で答えてくださった。
「あの時は目の前で泣いてしまって本当にすみませんでした。私全然仕事が出来なくて…」
「いえ、仕方ないですよ。あの日は混んでいたから…。それより今日改めてお話ししてすごい成長されたなって感心しました。実はあれから店の前を通る度、中を覗いていたんです。今日はいるかな、元気にしてるかなって」
私は驚きを隠せず、思わずお釣りをトレーに落としてしまった。

「そうだったんですか?! すごく嬉しいです! あれから半年経って、あの頃からは仕事出来るようになりました! と言ってもまだまだですが…」
という私に
「でもあの時と同じ笑顔で安心しました。今日も良い買い物が出来てとても嬉しいです。ありがとうございます。また来ますね!」
そう言い残して店を後にされたお客様に、「本当にありがとうございます。またお待ちしております」と精一杯の感謝の気持ちを込めて深々とお辞儀をしてお見送りした。
嬉しすぎてまた泣きそうになっている事に多分お客様も気が付いていたと思う。

接客は一期一会、こうして素敵なお客様に出会えると、どんなに沈んだ気持ちだったとしても笑顔になれる。
「今まで頑張ってきてよかった。また明日も頑張ろう」と力をもらえる。
接客のやりがいはそこにあると思う。
だから私は接客がしたくて販売員としての仕事を選んだ。

このエピソードは今、私の原点となった。
仕事が上手くいかない時、上手くお客様と接することが出来ない時、日記を見て思い出すと元気になれる。
あのお客様からは言葉に出来ないモノをいただいたと思う。

今日もお客様にお買い物を楽しんで頂けるように笑顔で「いらっしゃいませ。どうぞご覧くださいませ!」

「あったか・えっせい」のサイトでは過去の入賞作品すべてをご覧いただけます。

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